魚津蛇石口説

どうして遠く離れた土地の口説が県内に入ってきているのかというと、おそらく口説盆の存在が大きいだろう。もちろん、明治以降だんだんに人の行き来が盛んになったからというのもあるだろうが、和綴じの口説本が流布し、それには大分県内のみならず、全国各地の口説が掲載されていたと思われる。

 

 

魚津蛇石

 

加賀は百万栄えた頃よ ところ越中魚津の在に 片貝河原のその又奥に

御殿御用の材木積んだ それが一夜に流れてしまう 積んでも積んでも流れてしまう

なぜにどうして流れるのやら 不思議に思いて村人達が 見張り立てさせ様子を見れば

急に雷 谷間に響き 水の中より現れまする さても恐ろし大蛇の姿

嵐呼んでは大雨降らす 積んだ材木流してしまう 丁度その時三太と言うて

信州渡りの狩人おりて それが不思議な鉄砲持ちよ 金と銀との訳ある玉で

妖怪変化も皆打ち砕く そこで村人三太に頼み どうぞ大蛇をしとめてくれと

言えば三太が引き受けなさる そこで三太の生立聞けば 国は信州木曽山生れ

三四十二の幼い年に 父の後継ぎ狩人なりて 辛い修行の毎日送る

やがて二十五のその年なれば 一人前の狩人なりて 村をはなれて諸国を回り

とった獲物は数さえ知れず 狩の名人三太となりて 今日は片貝村人達の

願い聞いては断りきれぬ 細い険しい山坂道を 辿り着いたる刈又谷よ

待つ間しばしの妖しい気配 霧か煙か俄かに曇り ためし透かして漸く見れば

岩に巻きつく大蛇の姿 三太慌てて鉄砲を肩に 的を定めて引金絞り

銀の玉をば打込みなさる 確か当った筈ではあるが なんの手応えないどころかよ

大蛇怒って鎌首もげた 赤い眼で睨みをつける 三太めがけて襲いやかかる

三太震えて足踏み締めて 狙いすまして金色玉を 打てば木霊は谷間に響き

しばし透かして漸く見れば 大蛇射たれてのた打ち回る 岩に巻きつく最後の姿

ぱっとその時霧晴れまする 谷間眺めりゃ五色の虹よ 虹の上には竜神様が

形かわりて天へと昇る さても不思議や蛇石口説 まずはこれにて終わりとなりぬ