目連尊者口説(昔天竺)

昔天竺ショエンの国の 輪主第一目連尊者 修行成就の座禅の上で
広い世界と一目に見れば 人の行く末種々様々よ 娑婆で善行致せし人は
弥陀の浄土に送られまして 蓮の台に安住なさる 娑婆で悪行重ねし人は
地獄関門閻魔のちょうで 閻魔大王の調べを受けて 鬼の折檻拷問を受け
げにも恐ろし焦熱地獄 見るも哀れな餓鬼道に堕ちて 苦痛苦患のその暇もない
そこで母様行く末見れば 何の報いか餓鬼道に堕ちて やせ衰えて何とする
茅葉の様な襞をしき 楊枝のような手を垂れて 人目見るよりアラ恐ろしや
これはこのまま捨て置かれまい 何としてなり母上様の 苦痛苦患を救わんものと
恩師お釈迦に伺いければ 釈迦はにんまり答えて曰く 「年の七月十五日こそ
先祖祭りの吉日なれば 庭に施餓鬼の櫓をも築き 数多百味の供物を供え
数多僧侶をお招き申し 施餓鬼読経もいとねんごろに 心からなる施行をすれば
母の罪悪消滅いたし 何ぼ女の邪見の身でも 弥陀の浄土に赴くものよ」
聞いて尊者は打ち喜びて 来たる七月十五夜を期し 恩師お釈迦の仰せの如く
庭に施餓鬼の櫓をも築き 数多百味の供物を供え 数多僧侶を御招き申し
施餓鬼読経のいとねんごろに 心からなる施行をいたし 労をねぎらうその為として
御酒を出してもてなしければ 僧侶大いに打ち喜んで 心ゆくまで馳走になりて
酔うた機嫌で唄さえあれば 芸を自慢に踊るもありて 果ては坊さん総立ちとなり
盆を持ちたりまた被りたり 手振り手様もいと面白く 月に浮かれて夜の更けるまで
踊り続けしその踊りこそ 踊り伝えて今盆踊り 踊りゃ先祖の供養になる