国定忠治口説

今度珍し侠客口説 国を詳しく尋ねて聞けば 国は上州吾妻郡

音に聞こえし国定村よ そのや村にて一二と言われ 地面屋敷も相応なもので

親は忠兵衛という百姓で 二番息子に忠次というて 力自慢で武術が好きで

人に勝れし剣術なれば 親は見限り是非ないことと 近所親類相談いたし

地頭役所へお願いなさる 殿の御威光で無宿となりて 近所近辺さまよい歩き

ついに博徒の親分株よ 子分子方もその数知れず 一の子分は日光無宿

両刀遣いの円蔵というて 二番子分は甲州無宿 甲斐の丘とて日の出の男

それに続いて朝おき源五 またも名高き坂東安二 これが忠次の子分の中で

四天王とて呼ばれし男 頃は弘化の丙の午の 秋の頃より大小屋かけて

夜の昼のも分かちはなくて 博打渡世で月日を送る 余り悪事が増長ゆえに

今はお上のお耳に入りて 数多お手先その数知れじ 上意上意とその声高く

今は忠次も身も置き所 是非に及ばず覚悟を決めて 子分子方も同意の覚悟

鉄砲かついで長脇差で 種子島へと火縄をつけて 三ツ木山にて捕手に向かい

命限りの働きなどと 忠次付き添う女房のお町 後に続いて妾のお鶴

どれも劣らぬ力量なものよ 髪は下髪長刀持って 今を限りと戦うなれど

子分四五人召し取られては 今は忠次も早たまらじと 危うけれども覚悟を極め

越後信濃の山越えしよと いずくともなく逃げよとすれど 後に付き添う二人の女

命限りに逃げ行くほどに 今度忠次の逃げ行く先は 国はいずこと尋ねて聞けば

これも東国上州なれど 赤城山とて高山ござる 駒も通わぬ鶯谷の

野田の森にと篭りて住めば またも役人不思議なことに 手先手先をお集めなされ

頭忠次を召し捕らえんと 最寄最寄へ番小屋かける 今は国定途方に暮れて

女房お町と妾に向かい たとえお上へ召し捕らわれて 重い刑罰厭いはせぬが

残るこなたが不愍なままに さらばこれより国越えせんと 残る子分の二人を連れて

音に聞こえし大戸の関所 忍び忍びて信濃の国へ 忍び隠れて八年余り

鬼も欺く国定なれど 運のつきかや病気が出でて 今は是非なく故郷へ戻る

隣村にて五名井の村の 後家のお徳に看病頼む この家お徳の以前というは

日光道中玉村宿で 数多お客の勤めをすれど 忠次さんには恩あるゆえに

たとえこの身は何なるとても 何ぞ病気を本復させて 元の体にひだててやろと

神や仏に願望かけて 雨の降る日も風吹く夜も 裸足参詣を致されまして

茶断ち塩断ち水垢離とって 一所懸命祈ったけれど 天の罰かやお上に知れて

御取り締まりのお手先衆は 上意上意の声かけられて 女房妾や忠次にお徳

それに続いて子分に名主 以上七人召し捕らわれて ついにこれらは軍鶏篭よ

支度できたで厳しく守り 花のお江戸へ差し立てられる 音に聞こえし国定忠次

江戸の役所でご詮議受けて 余り吟味が厳しいゆえに 殊に病気の最中なれば

是非に及ばず一つの悪事 これを白状致したゆえに 関所破りのその咎めやら

木曽の道中臼井のうちで 大戸ばんしの狼谷で 重いお仕置きかけられました

これを見る人聞く人さんよ 男女子供の戒めよ