一口口説

 

盆の十六日 おばんかて行たら 茄子の切りかけ ふろうの煮しめ

 盆の十六日 おばんかて行たら 上がれ茶々飲め やせうま食わんか

 ほうちょうのべのべ 今夜の夜食 早くぬばねば 夜が明ける

 盆が来たらこそ 麦に米混ぜて 中に小豆が ちらぱらと

盆の踊りは 伊達ではないぞ 先祖祖先の お供養に

 盆が来たなら 踊ろや競ろや おせも子供も 出て踊れ

 踊り踊らば 手に目をつけて 足を揃えて しなやかに

 足を揃えて しなよく踊れ しなのよいのぬ 嫁にとる 

 踊る中にも しなよい娘 さぞや親様 嬉しかろ

 今宵逢いましょ 踊りの中で 紅緒ぞうりを 目印に

 盆の十六日踊らぬ者は 猫かネズミか もぐらもち

わしは唄好き 念仏嫌い 死出の山路も 唄で越す

 死出の山路も 三途の川も 唄で越ゆれば 苦にゃならぬ

今の若い衆は 皆雌鳥か 囃子なければ 口説かれぬ

 わしが口説けば 空飛ぶ鳥が 羽を休めて 踊りだす

 空に鳴く音は みな鷽鳥よ 閨の内こそ 時鳥

 七つ下がれば わしゃ目が見えんど 鳥を殺した その咎か

わしの音頭に ハマチや鯛も 浜の藻ぎわで 舞い踊る

盆の十六日 めでたい月夜 子持ち姿も 出て踊れ

 いつも月夜で 盆なら良かろ 踊るふりして 殿に逢う

 いつも月夜で 夜が八月で 歳が二十五で おればよい

 踊り踊るなら 三十まで踊れ 四十過ぎれば 子が踊る

盆の踊りが 習いたきゃござれ 盆の十三日に 見てござれ 

 盆の踊りと 三日月様は 次第々々に 丸くなる

一つ出しましょ 薮から笹を つけておくれよ 短尺を 

 竹に短尺 七夕様よ 云えぬ思いの 歌を書く

 歌は千ある 万あるけれど 恋の入らぬ 歌はない

 唄う心は 湧かないけれど 胸の曇りを 歌に出す

 わしが歌をば 唄おは訊くな あまりわが身の 切なさに

 唄え唄えと せき立てられて 歌は出もせで 汗が出た

 唄は唄いたし 歌の数知らぬ 何を頼りに 呻きましょ

 音頭取る娘が 棚から落てた 棚の下から 泣き音頭

唄は唄いたし 唄の数ゃ知らぬ 大根畑の くれがえし

 大根畑も 二度まじゃよいが 三度かえせば くどうござる

 切れた切れたよ 音頭の綱が 腐れ縄かや また切れた

 腐れ縄でも 繋がにゃならぬ 継がにゃ踊りの 輪が立たぬ

 縄の切れたな 結んでもつがう 縁の切れたは 結ばれん

 縁の切れたな 茶の実が薬 植えて育つりゃ 縁となる

 植えて育たにゃ 茶山にござれ 茶山茶どころ 縁どころ

 末も親様 世が世であれば 宇治の茶摘にゃ 行きゃすまい

 親は薩摩に 子は島原に 桜花かや 散り散りに

 親はお伊勢に 子は天草に 落ちる涙は なぞなかに

唄は理で押す 三味ゃ撥で押す 桶の魚寿司ゃ 蓋で押す

 押そな押しましょな 鯛の寿司押そな 鯛は高うつく 鯖ん寿司押そな

わしが唄うたら 大工さんが笑うた 唄に鉋が かけらりょか

 唄に鉋が かけらりょならば 雲に梯子が かけらりょか

 雲に梯子が かけらりょならば 虎に袴が 着せらりょか

踊りゃ崩れそうな まだ夜は夜中 明けりゃお寺の 鐘が鳴る

 鳴くな鶏 まだ夜は明けぬ 鳴けばお寺の 鐘が鳴る

 鐘が鳴るかや 撞木が鳴るか 鐘と撞木の 間が鳴る 

 鐘と撞木が 流れて下る とかくこの川 後生の川

 踊り踊るなら お寺の庭で 踊るかたでに 後生願う

 後生願うなら 宇佐よりゃ中津 中津寺町ゃ 後生楽

 後生は願いなれ お若いとても 時はきらわぬ 無常の鐘

 まめで逢いましょ また来る盆に 踊る輪の中 月の夜に

 別れ別れと 差す盃の 中は酒やら 涙やら

 今宵さ踊りは どなたもご苦労 これにこれじと またおいで

 千秋万世 思うこた叶うた 末は鶴亀 五葉の松

君と見るやと 今宵の月を せめて立ち出で 眺めばや

 闇夜おそろし 月ならよかろ 親と月夜は いつもよい

 十九立待 二十日の寝待 二十三夜の お月待

 東山から おいでます月は さんさ車の 輪のごとく

 様は三夜の 三日月様よ 宵にちろりと 見たばかり

 宵にちらりと 見たではならぬ うちにゃ子もある カカもある

 お月さんでさえ 夜遊びなさる わしの夜遊び 無理じゃない

 月の出鼻と 約束したが 様は来もせで 風ばかり

 うちを出るときゃ お月さんと出たが お月ゃ山端に わしゃここに 

 お月ぁ山端に 操の鏡 私ゃ柄杓の 水鏡

 水の出端と 二人が仲は 堰かれ逢われぬ 身の因果

 遠く離れて 逢いたいときは 月が鏡に なればよい

 宵は月にも 紛れてすむが 更くる鐘には 袖しぼる

 夢か現か 現か夢か 覚めて涙の 袖袂 

 雪か霙か 霙か雪か とけて波路の 二つ文字

 来いと言うたかて 行かれる道か 灘が四十九里 波の上

 名をば隠して 恋慕の道は 色と誠に 別れゆく

 色のイロハの 口紅つけて 宵は浮気な 夕涼み

 七つ八つから イロハを習い ハの字忘れて 色ばかり

 ぴんとすねては また笑い顔 苦労させたり 泣かせたり

 色で身を売る すいかでさえも 中に苦労の 種がある

竹に短尺 七夕様は 川を隔てて 恋なさる

 花の短冊 恋には文よ 風の情けに 落ち桜

 恋し恋しと 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす

 昼は草場に 胸火を包み 夜は焦がれて 飛ぶ蛍

 賽の河原の 地蔵さんでさえも 小石小石で 苦労する 

 小石小川の 鵜の鳥見やれ 鮎をくわえて 瀬を上る

 鮎は瀬に棲む 鳥ゃ木にとまる 人は情けの 下に住む

潮来出島の 真菰の中に 菖蒲咲くとは しおらしや

 花もいろいろ 桜の園の 春を送りて 幾歳も

 かわるまいとは 似せ紫よ 底の心は 薄桜

 色の盛りは 二十の隣 花も柳も 春ばかり

 桜三月 あやめは五月 咲いて年とる 梅の花

 わしは朝顔 一重に咲けど 主は白菊 八重に咲く

 その日その日の 朝顔さえも 思い思いの 色に咲く

 君に焦がれて 蜘蛛手に文を 思い八つ橋 かきつばた

 咲くや昔の 花橘か 袖に匂いも 懐かしや

 花はいろいろ 五色に咲けど 主に見返す 花はない

 またの御見と 別れの床は 恋が増す穂の 花すすき

 梅にゃ惚れても 桜にゃ惚れな 梅に鶯 来て止まる

 梅にゃ惚れても 桜にゃ惚れな 同じ花でも 散りやすい

 今宵やよい晩 嵐も吹かで 梅の小枝も 折りよかろ

 梅の小枝も 折りかけやめた 後で咲くやら 咲かぬやら 

 他人の女房と 枯れ木の枝は あがるながらも 恐ろしい

 軒の玉水 とくとくござれ 繁くござれば 人が知る

 忍ぶ恋路は さて儚さよ 今度逢うのが 命懸け

 行くも帰るも 忍ぶの乱れ 限り知られぬ わが想い

 思いせぬとは 人目の関よ 思いますぞえ 神かけて

 あんたどう言うても 誠にならぬ 袂すがりの 子がござる

 山は焼けても 山鳥ゃ立たぬ なんの立たりょか 子のあるに 

名残惜しさを 口には出せず じっと咥えた 帯の端

 大阪出てから まだ帯ゃとかぬ 帯はとけても 気はとかぬ

 浅い川なら 小褄をからげ 深くなるほど 帯をとく

恋で身を病みゃ 親達ゃ知らず 薬飲めとは 親心

 お医者様でも 草津の湯でも 恋の病は 治りゃせぬ

 恋の病も 治せば治る 好いたお方と 添や治る

 思や残念 あのヤブ医者が 薬違えて 様殺す

おきせん取られて 泣くのが馬鹿じゃ 甲斐性あるなら 取り戻せ

 甲斐性荒いじゃ 取り戻さいじゃ 枕並べて 寝てみせる

好きと嫌いが 一度に来れば 箒立てたり 倒したり

 好いた男に 茶を汲むときは 金の茶碗に すいし水

 好かん男に 茶を汲むときは 欠けた茶碗に 泥の水

 わしとお前は 茶碗の水よ 誰が混ぜても 濁りゃせぬ

 好いてはまれば 泥田の水も 飲めば甘露の 味がする

 好いたお方に 盃さされ 飲まぬさきから 桜色

 私ゃ奥山 一本桜 八重に咲く気は さらにない 

 わしも一重に 咲く花ながら 人目悲しや 八重に咲く 

 八重の山吹 派手には咲けど 末は実のない ことばかり

搗けど小突けど この米ゃ剥げぬ どこのお倉の 底米か

 わしとお前は お倉の米よ いつか世に出て ままとなる

 年と今宵と 引替欲しや 長し短し ままならぬ

 ままにならぬと お櫃を投げりゃ そこらあたりは ままだらけ

 好いちゃおれども 身がままならぬ ままにならぬ身を 惜しうござる

雪のだるまに 炭団の目鼻 解けて流るる 墨衣 

 わしとお前は すずりの墨よ すればするほど 濃ゆくなる

 黒うする墨 すらるる硯 濃いも薄いも 主次第

 苦労するとて 含ます墨も 回りかねたか 筆の先

 硯ゅ引き寄せ 墨する方は 恋の手紙を つらつらと

 主の便りを 聞きたいままに 仮名も習わぬ 筆を持つ

 思うままには 筆さえならぬ 恋にゃイロハの 書き習い

 慣れぬ文句の 文書き初めも 色に迷うて 運ぶ筆

 あなたみたよに ご器量がよければ 五尺袂にゃ 文ゃ絶えぬ

 逢うていてさえ とどかぬ言葉 文に書かれる 筈がない

 通う千鳥に 文託けて 便り聞かねば 須磨の浦

 心づくしに 書きたる文を 誰を頼りに 待つのやら

 今宵逢瀬を 知らせる筆の 文字はお前に 走り書き

 雨の降る夜は ただくよくよと 書いた怨みの 愚痴な筆

 思い初めても わしゃ古筆の 先は不実で すぐ切れる

 筆に言わせる 嘘八百も 狐狸の 手管かな

 添うた披露の 嬉しい文に 気さえ勇んで 走る筆

 添えぬ知らせか 文書く筆の 先は候々 切れたがる

 添える時節が 北野の宮へ 書いた怨みの 筆おさめ

 添うて収める 天神様に 誓う起証を 書いた筆

 二世の誓紙を 書く筆の毛の 先の切れたが 気にかかる

 往復葉書で 返事を聞けば 仲を切るよな この始末

 思い切れとは 死ねとのことよ 死なにゃ思いの 根が切れぬ

 死んでしまおか 髪ゅ切りましょか 髪は伸べもの 身は大事

 死んで花見が また咲くならば 寺や墓場は 花だらけ

 糸は千本 切れても繋ぐ 切れた情けが 繋がれぬ

君と寝るかや 五千石取るか なんの五千石 君と寝る

 こいさここに寝て 明日の晩はどこか 明日は田の中 あぜ枕

 わしとあなたは 深田のたにし 深くはまらにゃ とれません

月夜月夜に わしゅ連れ出して 今は捨てるか 闇の夜に 

 月の夜でさえ 送られました 一人帰らりょか この闇に

 逢うてよいのは 夜更けの月さ お前薄情な 枯れ芒 

 今宵や十五夜 有明なれど 様がござらにゃ くれの闇

 一人生まれて 一人で死ぬに なぜに一人じゃ 暮らされぬ 

 わしとお前は 羽織の紐よ 固く結んで 胸に置く

恋の小刀 身は細けれど 切れて思いが 深くなる 

 お前正宗 わしゃ錆び刀 お前切れても わしゃ切れぬ

 思い切れとは 死ねとのことか 思い切らりょか 増す恋を

こよさ一夜は ぜひ泊まりゃんせ 川の流れも 堰きゃ止まる

 心急くよりゃ 川堰きなされ 川にゃ思いの 鯉がおる

 ビクを片手に 釣り竿かたげ 鯉は釣れないものかいな

 お前釣竿 わしゃ池の鯉 釣られながらも 面白や

 鯉の滝登り 何と言うて登る ショボラショボラと 言うて登る

積もる話に とけあう心 変えぬ操の 松の雪

 積る怨みの 雪さえとけて 春は嬉しや 吉野山

 雪の化粧も さらりと捨てて 主と世帯を 春の山

 花や紅葉の 錦を脱ぎて 真に添寝は 裸山

 主のことなら 理を非に曲げて 苦労駿河の 富士の山

 鬼の首でも 取りたる思い こわい首尾して 大江山

 主を松原 折よき首尾を いつか人目に 筑波山

 色気含んだ あの佐保姫は 笑顔うつした 鏡山

 さんざ苦労の 峠を越して よいよ嬉しや 妹背山

 上り詰めたる 思いがいつか 漏れて噂の 高い山

 高い山から 谷底見れば 瓜や茄子の 花盛り 

 高い二階から 新長屋見れば カサやヒゼンの 花盛り

 高い山から 握り飯こけた からす喜ぶ わしゃひもじ

 高い山から お寺を見れば お寺寂しや 小僧ひとり

 高い山から 低い山見れば 低い山よりゃ 高かった

 高い山から 裏の土手見れば こまい子供が 此木出す

 高い山から 田の中見れば 見れば稲穂が 垂れ頭

 高い二階から 鏡で見れば 下じゃ由良さん 文を読む

 愛宕山から 下町見れば ここもかしこも 桑茶の茶

 花のお江戸に 桑茶を植えて 食わでいろとは 人を茶に

思いますぞや あなたのことを 山で木の数 茅の数

 わしとお前と 立てたる山を 誰が切るやら 荒らすやら

 わしが山へ行きゃ イドロがとめる イドロとめるな 日が暮れる

 富士の雪かや 私の思い 積もるばかりで 消えやせぬ 

 富士の山ほど 登らせおいて 今は釣瓶の 逆落とし

伊那の笹原 そよ吹く風も 情け有馬の 訪れか

 有馬立つとき 身もがな二つ あとに置く身と 帰る身と

 松になりたや 有馬の松に 藤に巻かれて たよたよと

 会津取ろうか 若松取ろか 朝の茶の子に 二本松

 関の五本松 一本切りゃ四本 あとは切られぬ 夫婦松

 君と別れて 世に住吉の 松と諸共 千代かけて

 お前松の木 わしゃ蔦かずら 絡みついたら 離りゃせぬ

 滝に打たれて 落ちそな岩も 抱いてからまる 蘭の花

 落ちよ落ちよと 落としておいて 壁に葛葉 のきごころ

 立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿が 百合の花

 花になりたや ジュクロの花に 花は千咲く 実は一つ

 一の枝より 二の枝よりも 三の小枝が 影をさす

 影を映した 離れの座敷 庭じゃ真砂の 忍び泣き

 忍ぶその夜の 時雨は嬉し 濡れて車の 音もせず

 今宵来るなら 裏からおじゃれ 前は車戸で 音がする

 音がするなら 大工さんを雇うて 音のせぬよに してもらえ

 ござれ来いよとは 言葉の飾り 行けば納戸の 戸を閉める

 嫌で幸い 好かれて困る お気の毒じゃが 他にある

 足が悪くば 七重の膝を 八重に折りての お断り

この家座敷は めでたい座敷 鶴と亀とが 舞い遊ぶ

 松に雛鶴 千歳の春よ 庭の清水に 亀遊ぶ

 お前百まで わしゃ九十九まで ともに白髪の 生ゆるまで

 この家お庭に 井戸掘りすえて 水は湧かいで 金が湧く

 別れ別れの 釣瓶をつなぎ 丸く添わせる 井戸の綱

 これなお庭に 茗荷と蕗よ 茗荷めでたや 蕗繁盛

 これなおうちに 二又榎木 榎実ならいで 金がなる

 飲めや大黒 唄えや恵比寿 中で酌する 宇迦の神

 年の始めに 若水むかえ 長い柄杓で 宝汲む

 めでためでたの 若松様は 枝も栄ゆりゃ 葉もしゅげる

 枝も栄て お庭が暗い 枝も下ろそや 一の枝

 一の枝よりゃ 二の枝よりも 三の小枝が 邪魔をする

私ゃろうそく 芯から燃える あなた松明 上の空

 上の空吹く 風とは知らず 登りつめたる 奴だこ

 蛸にゃ骨なし 海鼠にゃ目なし 好いた男にゃ 金がなし 

わしが御門は ひぐらし御門 見ても見飽かぬ 添い飽かぬ

 添寝した夜に 添寝の夢は 添寝せぬ夜に 廻したい

 うつつ心で 柱にもたれ 起きていながら 主の夢

 主は罪だよ 来る度ごとに かたい私を 迷わせる

お月様さよ 黒雲がかり 私ゃ二人の 親がかり

 親はよいもの この世の導 親がなければ 光なし

 親が薮なら 私も薮よ 薮に鶯 鳴くわいな

 親の意見と 茄子の花は 千に一つの 徒がない 

 親の意見も 二度まじゃよいが 三度重なりゃ 腹が立つ

 好いておれども まだ親がかり 親が許さにゃ 籠の鳥 

 親は親竹 子は樋の水 親の遣る先ゃ どこまでも

 好いて好かれて 行くのこ縁じゃ 親のやる先ゃ 義理の縁

 人の苦労を 我が身に受けて そしてお前に する苦労 

 苦労するのは てんから覚悟 粋な亭主を 持つからは

 粋な浮世を 恋しさ故に 野暮に暮らすも 心から 

 あなたさんさよ その気であれば わしも縄でも 蔓でも

 わしも若いときゃ 縮緬だすき 今じゃ縄帯 縄だすき

 金の千両は 一両もいらぬ 男度胸に 惚れてやる

 石のおくどに ハガマをかけて 様と渡世が してみたい

 連れて行くなら 一夜も早く 心変わりの せぬうちに

 連れて行くから 髪をときなおせ 島田くずして 丸まげに

 連れて行たとて 難儀はみせぬ 着せて食わせて 抱いて寝る

 抱いて寝もせにゃ 暇もくれぬ つなぎ船とは わしがこと

 ついておいでよ この提灯に けっして苦労は させはせぬ

 まさか違えば 二足の草鞋 主にはかせて わしもはく

 杖を片手に 深谷川を 渉る浮世の 独木橋

 親のすねをば 離れてみたが 日々の暮らしは 楽じゃない

あの子よい子だ 牡丹餅顔で 黄粉つけたら まだよかろ

 あの子見るとて 垣で目をついた あの子目にゃ毒 気にゃ薬

わしとお前は 二枚の屏風 離れまいぞや 蝶番

 娘島田に 蝶々がとまる とまるはずだよ 花じゃもの

 娘可愛や 白歯で身持ち 聞けば殿御は 旅の人

 惚れてつまらぬ 他国の人に 末は烏の 鳴き別れ

 様と別れて 松原行けば 松の露やら 涙やら

 こぼれ松葉は あやかりものよ 枯れて落ちても 二人連れ

 お前松の木 わしゃ胡桃の木 便り梨の木 気は紅葉 

 痩せるはずだよ 今日この頃は 茶断ち塩断ち 主のため

 忘れ草とて 三味線弾けば 唄の文句で 思い出す

 思い出しては 写真を眺め なぜに写真が 物言わぬ 

 思い出すとは 惚れようが薄い 思い出さずに 忘れずに

 思い出しゃせんか 泣きゃせんか殿御 思い出しもせにゃ 泣きもせぬ 

 泣いてくれるな 門出の朝に 泣けば駒さえ ままならぬ 

 朝の出がけに どの山見ても 霧のかからぬ 山はない

 山は晴りょとて 思いは晴れぬ 様は浮雲 旅の空

 晴れぬものなら 雨など降らせ どうせ軒端の 濡れ燕

 旅の人には 早惚れするな 末は茶のかす 捨てられる

主の側なら 浮世を捨てて 深山住まいもいとやせぬ

 山で恋すりゃ 木の根が枕 落ちる木の葉が 夜着となる

 木の根枕に 床とりゃさいな 木の根はずせば 石枕

 木挽ぐらいが 色しょた何か 似合うた松の木にゃ 横止まり

 木挽ゅ見ろどちゃ 藪で目を突いた 木挽ゃ見まいもの 身の毒よ

 唄は節々 ところでかわる 竹の節でさえ 夜でかわる

 木挽さんとて 一升飯ゃ食ろうて 松の枯節ゃ 泣いてわく

 大工さんよりゃ 木挽きどんが憎い 仲のよい木を 引き分ける

 木挽さんには どこ見て惚れた 帳場戻りの 足袋はだし

 木挽さん達ゃ トンボな鳥な いつも深山の 木を頼る

 木挽さん達ゃ 山から山へ 花の都にゃ 縁がない

 木挽女房にゃ なるなよ娘 木挽きゃ腑を揉む 早う死ぬる

 木挽さん帰るかと 鋸の柄にすがる 離せまた来る 秋山に

 鋸は京前 諸刃のヤスリ 挽くはお上の 御用の板

 御用の板とは 夢にも知らぬ 墨をよけたは ごめんなれ

 鋸もヤスリも 番匠のカネも 置いてお帰れ 米の代

 米の代と言うちゃ そりゃ置ききらぬ ヤスリ代とでも 言うておくれ

 木挽さん達ゃ 芸者の暮らし 挽いて唄うて 金を取る

 木挽ゃ山中の 山には住めど 小判並べて 女郎を買う

 何ぼ挽かんでも 二間どま挽かにゃ かかの湯巻は 何で買う

障子開くれば 稽古場が見える かわいお相撲さんは 砂だらけ

 お相撲さんには どこ見て惚れた 稽古戻りの 乱れ髪

 泣いてくれるな 土俵入り前に 締めたまわしが ゆるくなる

 櫓太鼓の 鳴るたびごとに 思い出します 関取を

 櫓太鼓に ふと目を覚まし 明日はどの手で 投げてやろ

様はいくつな二十二な三な いつも二十二で ござれ様

 様のゆえならダラの木山も 裸足裸で 苦しゅない

器量の悪いのに 声なと良けりゃ 声で一夜の なびかしょに

 男ぶりよりゃ 器量よりゃ心 心よいのに 誰も好く

 昔なじみと つまずく石は 憎いながらも 振り返る

 姿かたちは 自慢にゃならぬ 味が自慢の 吊るし柿

 程のよいので 油断がならぬ 添うた私が 気がもめる

 揉めた揉めたは 柴茶が揉めた 揉めた柴茶の 味のよさ 

はだけられても 世間は広い 広い世間に 出て遊ぶ

 広い世間に お前と私 狭く楽しむ 窓の梅

 梅にゃ粋あり 松には操 竹なら割りたい わしが胸 

 割って見せたい 胸三寸に 辛い浮世の 義理がある

下の畑に 山芋植えて 長うなれ太うなれ 毛も生ゆれ

 宵にゃ私の すりばちで とろろになるまで 摺りましょか

 娘十七八ゃ 根深の白根 白いところにゃ 毛が生えた

 抱いて寝なされ 抱かれて寝ましょ 私ゃ今宵が 色初め

 嫌じゃ嫌じゃと 畑の芋は 頭振り振り 子ができる

先で丸う出りゃ 何こちらでも 角にゃ出やせぬ 窓の月

 月と花との よい仲を見て 松は緑の 角はやす

 丸い玉子も 切り様で四角 ものも言い様で 角が立つ

 破れふんどし 将棋の駒よ 角かと思うたら 金が出た

 エビシャ小屋では 色事ぁでけぬ 将棋碁盤で 目が多い

永の年月 心の曇り 晴れて逢う夜は また時雨

 今朝の時雨は 宵暮かけて 雲の上まで 通りもの

 雨の降る夜は おもしろけれど 忍び辛いは 下駄のあと

 雨の降る日にゃ ござるなよ殿御 濡れてござれば なおいとし

 雨の降る夜は 恋しさまさる せめて待つ夜は 来たがよい

 さんさ時雨か 萱屋の雨か 音もせずして 濡れかかる 

 差した傘 柄漏れがすれど あなた一人は 濡らしゃせぬ 

 私ゃ春雨 主や野の草よ ぬれる度毎 色を増す

 濡れてしっぽり 打ち解け顔に 更けた世界を しみじみと

 好いて好かれて 口まで吸わせ 末は捨てられ 巻煙草 

 雨の夕べは 降られて帰る 今宵月夜に 照らされた

 月に照らされ 雪には降られ せめて言葉の 花なりと

 月が差すかと 蚊屋出てみれば 粋をきかして 雲隠れ

 月に群雲 花には嵐 散りて儚い 世のならい

 月が花影 描いた窓も 今じゃ青葉の 青すだれ

 屋根のすだれを 下ろして急ぐ 粋な爪弾き 水調子

 吹けよ川風 上がれや簾 中のお客の 顔見たや

 粋な蛇の目が 柳を潜る 下を燕が また潜る

 吹けよ川風 柳がなびく 誰に思いの 洗い髪

 髪の結いだち 洗いのしだち カネのつけだちゃ いつもよい

皺は寄れども あの梅干は 色気離れぬ 粋な奴

 私ゃ青梅 揺り落とされて 紫蘇と馴染んで 赤くなる

 君は小鼓 調べの糸よ 締めつ緩めつ 音を出だす 

 抓りゃ紫 食いつきゃ紅よ 色で仕上げた この体 

 色に染まるも 元はと云えば 浅い心の 絵具皿

しょおが婆さんな 焼餅好きじゃ ゆんべ九つ 今朝七つ

 ゆんべ九つぁ 中りもせねど 今朝の七つは 食中り

唐に色置き 名古屋に住めば 二日酔いかよ 唐恋し

 阿波に色置き 讃岐に住めば ねぐら鳥かよ 粟恋し

 美濃に色置き 尾張に住めば 雨も降らぬに 蓑恋し

お寺に参るよか 臼すりござれ 二升と三升すりゃ 後生になる

 四升五合すったじゃ あと五合頼む まあ五合願えば 後生になる

 臼をすり来た すらせちゃおくれ 私ゃやり木の 番にゃ来ぬ

 臼はヨシマ臼 やれ木は堅木 臼の中碾きゃ 忍び妻

 臼は石臼 やれ木は堅木 臼の元ずりゃ お染さん

 臼はすれすれ すりにこ来たよ こごつこまごつ 聞きにゃ来ん

 臼はすれすれ すりにこ来たよ 臼はやめまい 夜明けまで

 臼をすり来て すらんような奴は いんでくたわけ 朝のため

 臼をすり来て すらんで帰りゃ 宿の名が立つ 角が立つ

 ものをすらせち だらせち寝せち 後ぢ歯がゆがりゃ きびが良い

 臼の元ずりゃ なりふりゃいらぬ 襷つめかけ 引き回せ

 臼にゃ好かねど 臼元さまの 入れる手じなに わしゃ惚れた

 様と米搗きゃ 中トントンと 糠がはぼ散りゃ おもしろさ

 臼はひょんなもん つまんで入れて 入れて回せば 粉がでける

 できたその子は 誰ん子か知らぬ 団子丸めて 食うてしまえ

 今晩これん臼は 身持ちでないか 中の白いのは 粉でないか

 臼をするなら 身を揺り込んで 思う力を みな入れて

 臼をすれすれ すらんもんな帰れ 家の名が立つ 損が立つ

 今宵別嬪さんの 臼する姿 枕屏風の 絵に欲しゅい

 臼は重たい 相手は眠る 眠る相手は 嫌じゃもの

 隣のばあさんな 欲なこた欲な 臼はすらせて 餅ゃくれぬ

 臼は台でもつ なかごで締まる わしとあんたは 寝て締める

 主が振舞う 霜消し酒に やり木持つ手に 汗が飛ぶ

 臼に麦を入れ ぬかぶく時にゃ 五尺体が 乱れゆく

 臼をすらしょどち 袖引く手引く しまやご苦労と 戸を立つる

 臼はすれすれ 碾かねばならぬ 碾かでまうのは 水車

 ものをすり来て すらんような奴は いっそ来なよい 失すらよい

 ものをするなら やり木をしゃんと 押して回せば 粉はすれる

 お前見たさに ものすり来たが おまや他人の 人とする

 俺がもとすりゃ お前は裏を 調子揃えば 臼はまう

 臼がまいます 下臼までも 唄にあわせて よう回る

 廻りさんなら 唄わにゃならぬ 唄うて廻しましょ 次の人

 小麦五升すりゃ へこすり破る またとすりまい 御所小麦

 小麦五升どま 唄でもするが かすの粉ばなしゃ 嫁こびし

 嫁をかわゆがれ 嫁にこかかれ 愛しわが娘は 他人の嫁

 小麦すりなら 宵からおいで 夜中過ぐれば カスばかり

 小麦五升どま 唄でもするが 後の小話ゃ わしゃ知らぬ

 お月ゃ山端に おうこ星ゃ西に もはや止め頃 上がり頃

唄でやらんせ この位の仕事 仕事苦にすりゃ 日が長い

 娘精出せ この土手つけば 粟のごはんが 米となる

 わしが池する 役人ならば 一度のたばこも 二度させる

 やろうえやろうえは 部長さんの役目 油売るのは こちの役

 私この池 監督なれば 一度休みを 二度にする

様の江戸行き 浴衣を縫えば 涙じゅめりで 糸がこぬ

 源氏車は 後へは退かぬ 一度我慢の 江戸気質

今日の苗取りゃ 若手の揃い どこで約束 して来たな

 どこで約束 しちゃ来ぬけれど 道の辻々 出合うて来た

 萎えた男に 苗取らすれば 苗は取らずに 萎え萎えと

田植々々と 楽しゅで来たら 主は代掻き わしゃ田植

 五月男の どこ見て惚れた 代田上がりの 濡れ姿

 腰の痛さよ この田の長さ 四月五月の 日の長さ

 四月五月は 日が長けれど 様を待つ夜は まだ長い

 田植小噺ゃ 田主の嫌い 唄うて植えましょ 品良くに

 わしが唄うたら 向かいからつけた 昔馴染みか 友達か

 田主旦那どんと 心安うすれば 決めた日傭よりゃ 袖の下

 五月五月雨に 白足袋雪駄 あげな妻持ちゃ 恥ずかしや 

 五月五月雨に 乳飲み子が欲しや 畦に腰掛け 乳のましょ

 植えてひどるな 一本苗を 天の恐れで 子が差しぬ 

 子持ちよいもの 子にくせつけて 添い寝するとて 楽寝する

 五月三十日ゃ 寝てさよ眠い さぞや眠かろ 妻持ちは

 雨は降り出す 心は急ぐ 急ぐ心が ままならぬ

 いつも五月の 田植ならよかろ 様の手前で 植ようものに

 祝いめでたで 植えたる稲は からが一丈で 穂が五尺

 さんさ振れ振れ 三尺袖を 袖が三尺 身が五尺

 今年ゃ豊年 穂に穂が咲いて 道の小草に 花が咲く

 早稲が七石 中稲が九石 ずんと晩稲が 十二石

 今日の田植は みな雌鶏な 時を知らぬな 唄わぬな

 今日の田植に 親方ないか もはや止め頃 あがり頃

 今日の田植は どなたもご苦労 これにこれずと またござれ

 五月ながせに 絞らぬ袖を 今朝の別れに 袖絞る

 今年初めて 田の草とれば どれが草やら 田稗やら

わしに通うなら 裏からござれ つつじ椿を 踏まぬよに

 つつじ椿は 踏んでもよいが うちの親たち 踏まぬよに

 うちの親たちゃ どうでもよいが 村の若い衆の 知らぬよに

何をくよくよ 川端柳 水の流れを 見て暮らす 

 来るか来るかと 川下見れば 川にゃ 柳の影ばかり 

 川に立たせて 待たしておいて 内でダツ編みゃ 手につかず 

 川に立つより 立ち聞きしよと ごめんなされと 寄るがよい

 あんたよう来た よう来てくれた わしが思いの 届いたか

 逢えば心も つい急き立って 話す言葉も 後や先

 何を言おうにも かを語ろうも あわれ明日の 切なさよ

 話しらけて ついつくねんと あけて口説の 夏の月

 宵の口説に 白けた後を 啼いて通るや 時鳥

 よせばよいのに 舌切り雀 ちょいと舐めたが 身の詰まり

 竹に雀が しなよくとまる 止めて止まらぬ 色の道

 たまに首尾して 根笹の甲斐も 夜明け短や 朝雀

 雉のめんどり つつじが元よ 妻よ恋しと ほろろうつ

 雉も啼かずば 撃たれもしまい わしも逢わねば 焦がれまい

 花を見捨てて 帰るや今朝の 霞隠れの 鳥の声

 暮を待つ身にゃ 啼くさえ嬉し 明けにゃ怨んだ あの鴉

 今宵浮気に さえずり出でて 徒し香に立つ 枝移り

 羽交伸ばして 気も晴々と どこへ幾夜の 夫婦鶴

 仲を妬んで 立つ荒波を よけて離れぬ つがい鳥

 竹に鶯 梅には雀 それは木違い 鳥違い

 焦がれ寄辺の わしゃ浜千鳥 波に浮かれて うかうかと

 俺は船なし 磯辺の千鳥 海を眺めて 鳴くばかり

 わしは親なし 礒辺の千鳥 汐が干りゃ泣く 満つりゃ泣く

 潮の満干に 思いの袂 乾く間もなき 沖の石

 女波男波を 汲み分けおいて 焼くや藻汐の 夕煙

様は出て待つ 出るこたならぬ 庭に篠箱 二度投げた 

 様はよう来た よう来てくれた わしが思いの 届いたか

 籠めた夜霧に 待つ身を託ちゃ 千丁松明 つけて来る

 来るか来るかと わしゃ松風に どこへ行平 中納言

 来るか来るかと 待たせておいて よそにそれたか まぐれ雲

いとしいとしと 思えばなおも 去るに去られぬ 垣の外

 誰か来たそな 垣根の外に 庭の鈴虫 音を止めた

 声はすれども 姿は見えぬ 様は荒れ野の きりぎりす

 今宵さ行くぞと 目で知らすれど 竹の接ぎ穂で 木はつかぬ

紺の前掛け 松葉の散らし 松に来んとは 腹が立つ

 来るか来るかと 待つ夜に来んで 待たぬ夜に来る 憎らしや

 待つ夜幾度 つぎ足す灰に いつか怨みの 積もる灰

 待つに苦労も 気も埋火の 消えて怨みの 残る灰

 待てど来ぬ夜に 怨みの火鉢 一人思案に 窪む灰

 人目忍びて 目に物言わせ 書いて見せたる 灰の文字

 灰に書いたる 文字ゃないかいな 読みも分からぬ 主の胸

 燃ゆる思いの 火は消えやらで 怨み数増す 胸の灰

 燃ゆる思いも うわべにゃ見せず 腹で焦がるる 懐炉灰

 主を浮世に かためぬ心 嘘と誠を 振るう灰

 添うて嬉しさ 気が舞いだして 今朝も所帯が 灰神楽

 首尾に夜風は さて憎らしや 吹いて浮名を 散らす灰

 返す辛さを 懐炉の灰も さすが火付の 悪い今朝

 夜毎怨みを 書いたる灰も 今は所帯に つかう灰汁

様よ様よと 恋い焦がれても 末は添うやら 添わぬやら

 添えば我が夫 別るりゃ他人 なまじ大事は 語られぬ 

ぼんさん山道 破れた衣 肩にゃかからず 木にかかる

 山で怖いのは イゲばら木ばら 里で怖いのは 人の口

わしのスーちゃん 下田の狐 行かな来ん来ん 行きゃだます

 なんぼ通うても 青山紅葉 色のつかぬが 是非もない

 いくら口説いても 張子の虎は すまし顔して 首を振る

 徒やおろかで 逢われるものか 二町や三町の 道じゃない

磯部田圃の ばらばら松は 風も吹かぬに 気がもめる

 風も吹かんのに 豆ん木が動く どこかテレやんが 来ちょるじゃろ

 表来たかや 裏から来たか 私ゃ裏から 思うて来た

 思うて来たのに 去ねとは何か 秋の田をこそ 稲と言う

 可愛がられた 五月の水も 末は秋田で 逆落とし

絵島ゆえにこそ 門に立ち暮らす 見せてたもれよ 面影を

 花の絵島が 唐糸ならば 手繰り寄しょうもの 我が宿へ

 恋の科人 絵島が墓の 里に来て鳴け 秋の虫

 雁が渡るに出てみよ 絵島 今日は便りが 来はせぬか

 花に別れて行く かりがねも 辛い苦労の 苦の字形

 雲井遥かに飛ぶ かりがねに 文が遣りたや かの里へ

あなたよう来た 何しに来たか わしに心根を 持つのかえ

 好いておりゃこそ 朝夕通う 嫌な思いを するじゃない

 厭なお方の 親切よりも 好いたお方の 無理がよい

様の来るときゃ いつでもわかる 裏の小池の 鴨が立つ

 裏の小池の 鴨さえ憎い 鴨が立たなきゃ 人は知らぬ 

 鴨が立つとは 昔のことよ 今は濁りて 泥鰌が住む 

様は来る来る 栗毛の馬で 私ゃ青々 青の駒 

 様が来たじゃろ 上野の原に 駒のいななく 鈴の音 

 咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る 

七里墓原 栗山道を 様は夜で来て 夜で帰る

 様の来る道 粟黍植えて 逢わで帰れば きびがよい

 小癪言うやた 竹んかえ包うじ 水の出端にゃ かえ流せ

逢わぬうちなら 夜露も怖い 濡れりゃ浮名が いつか湧く

 たとえ逢わいでも 声さえ聞けば 逢うた心で わしゃ帰る

殿御さんたちゃ 御兄弟連れで 唄の稽古にゃ 上方に

 さても見事な 上方道は 松に柳を 植え混ぜて

 行ったな行ってみたな 上方道を 松と柳が 植えてある

 松に柳は 植えまいものを 柳枯れたら 松ばかり

 待つがよいかな 別れがよいか 嫌な別れよ 待つがよい

 待てど帰らぬ お方と知れど 今日もくるくる 糸車 

 淀の川瀬の あの水車 誰を待つやら くるくると 

 淀の車は 水ゆえ廻る 私ゃ悋気で 気が廻る

よんべ来たのは 姉ちゃん誰か 弟馬鹿言うな 猫じゃもの

 よんべ夜這どんが 二階から落てた 猫の真似して ニャオニャオと

 よんべ来たのは 夜這どんか猫か 猫が雪駄で 来りゃすまい

 かかの丸髷 鼠がかじる 親父ゃ啼く泣く 猫を呼ぶ

 恋の痴話文 鼠に引かれ 猫を頼んで 取りにやる

 猫が嫁入りすりゃ 鼬が仲人 二十日鼠が ちょろちょろと

今朝の寒さに 笹山越えて 露が袴の 裾濡らす

 木の根茅の根 草の根分けて 訪ね逢いたい 人がある

 遠い山道よく 来てくれた 花の雫か 濡れかかる

思うて通えば 千里が一里 逢わで帰れば また千里

 虎は千里の 山さえ登る 小障子一枚が ままならぬ

 思いはまれば 石の戸も開く 金の鎖も 切れまする

 切れたからとて 便りをさんせ 厭いて別れた 仲じゃない

よがな夜通し ジャコの子も乗らぬ お手をはだけた 蛸ばかり

 天が狭いのか 三つ星ゃ並ぶ 海が狭いのか エビゃかがむ

 西へ西へと お月も星も さぞや東は さみしかろ

 西と東に 立て分けられて 合わにゃわからぬ 襖の絵

吉田通れば 二階から招く しかも鹿子の 振袖が

 灯り障子に 梅屋と書いて 客は鶯 来てとまる

 宵は紛れて 暮らしもしょうが 更けて待つ夜の 畳算

 ふっと目覚まし 煙管を杖に 行灯目当てに ひとりごと

 いつがいつまで 廓の内に 何をたよりに うかうかと

 君は格子に 思わせぶりか 見えつ隠れつ 波の月

 意気な丸髷 結城の小袖 旦那おはようと 言うてみたや

 長の年季を 指折り数え 眉毛隠して 見る鏡

 惚れた証拠にゃ これ見ておくれ 腕に替名の 入黒子

 二つ枕の この引き出しに 嘘も誠も 入れてある

 わしとお前は 浦島太郎 明けて悔しき 玉手箱

 貞女両夫に まみえぬわしが 勤めなりゃこそ 仇枕

 鬢のほつれは 枕のとがよ 顔のやつれは 主のとが

 何も髪文字や もつれも解けて やっと浮名の 洗い髪

別府浜脇 啼いて通る鴉 金もないのに 買お買おと

 粋な鴉は 夜明けにゃ啼かぬ 野暮な鴉が 滅茶に鳴く

 わしも若い時ゃ 吉野に通うた 道の小草も なびかせた

 歳はいたれど 江戸吉原の 女郎の手枕は 忘りゃせぬ 

思い互いに 掛け合う橋の 中も苦界の 浮き沈み

 辛い川竹 勤めの苦から 痩せが日に増す 橋の杭

 命かけても ぜひ渡ろうと 思い長良の 橋普請

 ほかに心を 掛けよと思い 引いた言葉の 橋普請

 吾妻橋ちょう その名も嬉し やがて添わるる 我が身には

 出すは十八番で 弁慶気取り あとに引かれぬ 五条橋

 君の面影 うつつに見るは 夢の浮橋 恋い渡る

 恋に互いの 身も浮橋か 渡り逢う夜は 夢心地

 夢の通い路 結ぶの神の かけて嬉しい 枕橋

 晴れて夫婦に いつ業平と 嬉し並べた 枕橋

 ともに思案を 涼みの果の 首尾は四条の 橋の上

 ここで嬉しう 藍染橋と 寝ずに語ろや 待つことを

 こころ松橋 離れぬ仲を 嫉むとやこう 騒ぐ水

 石の反橋 身どもが恋は 文を尽くせど 落ちもせず

思案橋から 女郎屋が近い 行こか戻ろか 思案橋

 思案橋から 文ゅ取り落てた 惜しや二人の 名を流す

 思案半ばに 空飛ぶ鳥は 連れてのけとの 辻占か

 思案しかえても ま一度来ぬか 鳥も古巣に 二度戻る 

 思案しかゆりゃ 古巣はおろか 鳥も枯れ木に 二度とまる

 思案月かげ 苦労の癪か 更けてさし込む 寝屋の窓

 裏の窓から カニの足投げた 今宵這おとの 知らせかな

 裏の窓から ダイダイ貰うた 抱いて寝よとの 判じ物

 裏の窓から こんにゃく玉投げて 今夜来るとの 知らせかや

 いのか猪之助 戻ろか茂助 ここで別りょか 源之助

関の地蔵さん 親切者よ 雨も降らぬに 傘くれた

 傘を貰うたじゃ 柄のない傘を 末はお医者の 手にかかる

 関で女郎買うて 高島沖で 弾くソロバン 胸の内

 関の女郎衆は 医者より偉い 縞の財布の 脈をとる

 関の女郎見て うちのカカ見れば 千里奥山 古狸

坑夫さんには どこ見て惚れた 現場帰りの 千鳥足

 妹なるなよ 坑夫さんの嫁に 山がどんと来りゃ 若後家じゃ 

 十日叩いて 一度にドンと あの娘にやる金 欲しゅはない

 工事ごまかして お金を儲け 芸者ひかして 膝枕

 おやま買うよな たいまな金が あれば味噌買うて おじや炊け

 お山ちゃんちんさんで 儲けた銭を おやまで取らるりゃ 是非がない

わしは卑しき 芸子はすれど 言うた言葉は 変わりゃせぬ

 縞の木綿の 切り売りゃなろが 芸子切り売りゃ そりゃならん

 わしが木綿引きゃ お馴染みさんが 寝ろや寝ろやと 糸切らす

 木綿引く引く 居眠りなさる 糸のでるのを 夢に見た

 木綿ひきひき 眠りどまするな 眠りゃ名が立つ 宿の名が

 木綿ひくひく 眠りどまするな 眠りゃ伽衆が みな眠る

 寝ても眠たい 夏の夜に 木綿ひけとは 親が無理

 木綿引き習うて 機織り習うて 仕立て習うたら 人の嫁

昼はとんとん 床替えばかり 晩は桑摘み 眠たかろ

 蚕飼い上げ まぶしにゃあげて 様とおおぼの 湯に行こや

 かわいがられた 蚕の虫も 今は地獄の 釜の中

 製糸工女さんに どこ見て惚れた 赤いたすきで 糸を引く

 工女三日すりゃ 弁護士ゃいらぬ 口の勉強が よくできた

 蚕飼い上げて まぶしにあげて 早もお国に 帰りたや

恋の唐船 碇を見れば 沖の鴎も 忍び泣き

 沖の鴎に 汐時問えば 私ゃ立つ鳥 波に問え

 波に問やまた 荒瀬に問えと 荒瀬なければ 波立たぬ

 波に問うのは いと易けれど 沖の白波ゃ 物言わぬ

蒸気ゃ出て行く 煙は残る 残る煙が 癪の種

 主の心は 蒸気の煙 遠くなるほど 薄くなる

 情け荒波 手蔓を切りて 通う私を 止める舟

 梶の取り様も おぼつか浪の 主を頼りの 掛り船

 便り少ない この身の上と 知っていながら 捨小舟

宇治の柴舟 早瀬を渡る 私ゃ君ゆえ 上り舟

 主と白波 気軽に乗せて うまく私を 釣の舟

 人目離れて 気も浮船に 胸を明かして 夕涼み

 忍び大川 人目の岸を 離れ楽しむ 涼み舟

 主と近江の 夜を長浜と 寝物語に 下る船

 晴れて二人が 乗り出す船を 波もねたむか 荒く打つ

主の出船を 見送りながら またの逢瀬を ちぎり草

 船は出て行く 帆かけて走る 茶屋の娘は 出て招く

 娘招くな あの船待たぬ 思い切れとの 風が吹く

 一里二里なら 伝馬で通う 五里と離るりゃ 風便り

船に乗るとも 高い帆は巻くな 風に情けは ないほどに

 風に情けが ないとは嘘じゃ 上り船には 西がよい

 西に吹かせて 早う上らんせ またの下りを 待つばかり

 様は下りたか 百二十七艘 様もござろか あの中に

 船が来たぞな 三杯連れで 中の新造が わしが様

 船の新造と 女房の良いは 人が見たがる 乗りたがる

 船は新造でも 櫓回りゃようても お前乗らねば 動きゃせぬ 

 抱いて寝もせにゃ 暇もくれぬ 繋ぎ舟とは わしがこと

われは津島の 鍛冶屋の娘 金の鎖で 船つなぐ

 沖のとなかに お茶屋を建てて 上り下りの 船を待つ

 松の周りに 胡桃を植えて 待つより来る身は なお辛い

 様は来るはず なぜ様遅い どこに心を とめたやら

 人目厭うて 裏道廻る 知らず待つ身は 気がもめる 

押せや押せ押せ 七つや八つも 押せば都が 近くなる

 舵を枕に およるな殿御 舵はお船の 足じゃもの

船を出しゃらば 夜深に出しゃれ 帆影見ゆれば 懐かしや

 沖の暗いのに 白帆が見える あれは紀の国 みかん船

 主に一筋 思いも深く 恋は思案の 帆掛け船

 ふいと様子の かわった風に またも苦労を 白帆船

 深い底意の あるとは知らず うまくかかった 沖の舟

 船が来たぞな 白帆をあげて 明日はみかんの 市が立つ

 お市後家女に 三年通うた 通うたかどめに 子ができた

 なんとしましょか この月ゃ三月 梅が食べたい スユスユと

 月は重なる お腹は太る 様の通いは 遅くなる

 いちで後家でも 塩売りゃするな どこの門でも しよしよと

 してもしたがる 若後家さんは 今朝も二度した 薄化粧

酒を飲もうか 汁粉にしよか 今日の八つ茶にゃ お寿司食う

 さより街道 鰯が通る 鯖も出て見よ 鯵連れて

 鰯ゅ引いてきたが ほんに塩がない 塩は大阪 塩釜に

 塩釜街道に 松の木植えて 誰を待つやら 気にかかる

細い元手の 三筋の糸は 長い浮世の つなぎ棹

 佐渡と越後は 棹差しゃ届く なぜに届かぬ わが想い

 わしが思いは 月夜の松葉 涙こぼれて 露となる

 こぼれ松葉は あやかりものよ 枯れて落ちても 夫婦づれ

 ござれ話しましょ 小松の下で 松の葉のよに 細やかに

 松の葉のよな 細い気は持たで 広い芭蕉葉の 気を持ちゃれ

 昔ゃ松の葉に 五人は寝たが 今は芭蕉葉に ただ一人

 口にゃ一筋 心にゃ三筋 辛い調子を 合わす三味 

 三味の糸さえ 三筋に分かる なぜに分からぬ 主の胸

 三味は三筋に 胡弓は四筋 わしはお前に 一筋に

 お前一人と 定めておいて 浮気ゃその日の 出来心

 桃の袱紗に 紅絹裏つけて 何も包めど 色に出る

 折りてやりたや 浮気の枝を 徒な花には 実が入らぬ

 引く手数多の 我が袖なれど 針目かけたは 君一人

わしとあなたは 出雲の神の 結びあわせた 仲じゃもの

 惚れちゃまたやめ また惚れちゃやめ それじゃ出雲の 帳汚し

寒の師走も 日の六月も 辛い勤めも せにゃならぬ

 寒の米踏み さびしゅてならぬ 氷に浮き寝の 草もある

 仕事するときゃ 泣きべそ顔で 酒を飲むときゃ 腕まくり

木曾へ木曾へと 枯れ木を流す 流す枯れ木に 花が咲く

 佐渡へ佐渡へと 草木も靡く 佐渡はいよいか 住みよいか

 能登へ能登へと 茅萱も靡く 能登はいよいか 住みよいか

 隠岐へ隠岐へと 雁さえ渡る 隠岐はいよいか 住みよいか

天の香久山 かすみがとれて 夏を知らすか 時鳥

 お夏々々 夏吊る蚊帳は 冬は吊られぬ 夏ばかり

 お夏花なら 清十郎は紅葉 花と紅葉が 手を引いて

 小舟作りて お夏を乗せて 花の清十郎に 櫓を押さしょ

 お夏どこ行く 手に花持ちて わしは清十郎の 墓参り

 御墓参りて 拝もとすれば 涙せきゃげて 拝まれぬ

 清十郎二十一 お夏は七つ 合わぬ毛抜きを 合わすれば

 合わぬ毛抜きを 合わしょとすれば 森の夜鴉 啼き明かす

 向こう通るは 清十郎じゃないか 笠がよう似た 菅の笠

 笠が似たとて 清十郎であれば お伊勢参りは 皆清十郎

 似たと思えば わけない人の 後ろ姿も 仇にゃ見ぬ

かさを買うなら 三つ買うてごんせ 日傘雨傘 踊り笠

 破れ菅笠 締緒が切れて さすが着もせず 捨てもせず

 ままよ菅の笠 被り様がござる 後ろ下がりに 前よ上げて

 様よ三度笠 こくりゃげて被れ 少しお顔が 見とうござる

 土手の三度笠 あとから見れば しながよござる 笠の内

一つ人目を 忍ぶ夜は 女心の 吉野笠

 二つ深草 少将は 小野小町に 通い笠

 三つ見もせぬ 仲なれど 君が心の 知れぬ笠

 四つ夜な夜な 門に立つ 人が咎むりゃ 隠れ笠

 五つ今まで 逢うたれど 一夜も逢わずに 帰り笠

 六つ紫 小紫 顔にちらちら 紅葉笠

 七つ情けの ない客に お寄りお寄りと 遊女笠

 八つ山城 小山城 国を隔てて 近江笠

 九つここに 小網笠 雨の降り笠 日照り笠

 十で十まで 上り詰め 笠もこれまで 終わり笠

笠を手に持ち 皆さん去らば いかいお世話に なりました

 笠を忘れた 峠の小道 憎や時雨が また濡らす

 茶山戻りは 皆菅の笠 どれが姉やら 妹やら

 姉と妹に 紫着せて どちら姉やら 妹やら

 姉がさすなら 妹もさしゃれ 同じ蛇の目の 傘を

 姉も妹も 縁づきゃしたが 私ゃ中子で 縁がない

 縁がないなら 茶山にござれ 茶山茶どころ 縁どころ

 私ゃあなたに 惚れてはいるが 二階雨戸で 縁がない

 思いなさるな 思うたとても 枯木茶園で 縁じゃない

猿丸太夫 奥山の もみじ踏み分け 泣く鹿の

 向かいの山で 鹿が鳴く 明日はあの山 おしし狩

 鹿が鳴こうが もみじが散ろが わしが心にゃ 秋は来ぬ 

 安芸の宮島 廻れば七里 浦が七浦 七えびす

いざり勝五郎 車に乗せて 曳けよ初花 箱根山

 箱根八里は 馬でも越すが 越すに越されぬ 大井川

 都鳥とや 鳴く声もゆかし われは吾妻に 隅田川

貞女立てたし 浮気はしたし 心二つに 身は一つ

 身には衣着て 名は帯しめて 心濁らぬ 樽の酒

 呑めよ騒げよ 上下戸なしに 下戸の立てたる 蔵はない

 うちのお父さん お酒が好きよ 今日も朝から 茶碗酒

 お酒飲む人 花なら蕾 今日も咲け咲け 明日も咲け 

 酒が云わする 無理とは日頃 合点しながら 腹が立つ 

 腹が立つなら ねんねをおしな 寝ればお腹が 横になる

ここは田の畦 滑るなお為 転ばしゃんすな 半蔵さん

 長い畦道 よく来てくれた 裾が濡れつら 豆の葉で

静御前の 初音の鼓 打てば近寄る 忠信が

 小野道風 青柳硯 姥が情けで 清書書く

 斧九太夫 胴欲者よ 主の逮夜に 蛸肴

 加古川本蔵 行国が 女房戸無瀬の 親子連れ

 お前や加古川 本蔵が娘 力弥さんとは 二世の縁

 恋の音を出す 力弥が笛は さすが都の 竹じゃもの

 早野勘平さんは 主人のために 妻のお軽にゃ 勤めさす

 後の世までも 尽くせし忠義 残す誉れの 仮名手本

 どれがどれやら 数ある色に 目さえ届かぬ 縞手本

 人目あるゆえ 言いたいことも 胸に畳んで 折手本

 今宵逢うたる よい折手本 読ませ訊きたい ことがある

 色の初訳を よく折手本 主を師匠に 習い初め

 薄く染めるも 末濃くなるも 実と不実の 色手本

 浮気ゃ習わぬ 互いの実意 人の手本に なる心

 人に手本と 言わるる主が なんで読めない 胸の内

 痴話が嵩じて 障った手本 末は行儀も 崩す文字

 人の手本に なるならきっと 折り目正しく するがよい

天下泰平 治まる御代は 弓は袋に 矢は壺に

 治めおきます 刀は鞘に 槍は旦那の 床の間に

萩のクマ女は 白歯でよいが 鉄漿を召したら なおよかろ

博多帯締め 筑前絞り 歩姿が 柳腰

 博多柳町 柳はないが 女郎の姿が 柳腰

 博多騒動 米市丸は 刀詮議に 身をはめた

 博多米市 千菊連れて 刀詮議に 身をはめた

もののあわれは 石堂丸よ 父を尋ねて 高山に

 女人禁制の 高野の山よ 誰が植えたか 女郎花

様を持つなら 川越しにゃ持つな 水に降る雪 たまりゃせぬ

 雪の中でも 梅さえ開く 兎角時節を 待たしゃんせ

 辛抱しなんし また来る時節 泣いてばかりは いぬわいな 

雪は巴と 夜は更けたれど 笹はいらんか 煤竹や

 竹の切り様で 溜まりし水は 澄まず濁らず 出ず入らず

 入れておくれよ 痒くてならぬ 私一人が 蚊帳の外

不意を討たれた 千代松丸を 愛し愛しと 生仏

受けた情に 生身を埋めて 火事を封じた 快長院

花は霧島 煙草は国分 燃えて上がるは 桜島

 八百屋お七と 国分の煙草 イロでわが身を 焼き棄てる

安倍保名の 子別れよりも 今朝の別れが 辛うござる

 恋の気狂い 迷いの保名 またも迷うたか 葛の葉に

親のあるとき 子のないときに お伊勢参宮 してみたい 

 伊勢へ七度 熊野に四度 愛宕様には 月詣り

 三十三間堂 柳のお柳 可愛いミドリが 綱を引く

 伊勢は津で持つ 津は伊勢で持つ 尾張名古屋は 城で持つ

 行たら見て来い 名古屋の城は 金の鯱 雨ざらし

 雨に打たれて 色も香も失しょう 散らせともなや 梅の花

 わしとおまえは 道端小梅 ならぬ先から 人が知る

 覚えない身に また言いがかり 立たさにゃならない 私の胸

 行きに寄らんせ 帰りは日暮れ あらぬ噂の 風が立つ

 行きに寄ろうか 帰りにしよか ならば行きにも 帰りにも

 お前一人か 連れ衆はまだか 連れ衆ぁ後から 駕籠で来る

 主の連れ衆が しげしげ来れば 嬉しながらも またふさぐ

 送りましょうかよ 送られましょか せめてあの丁の 角までも

 重く見しょうの 形見の寝間着 怨みながらも 着ておくれ

槍は錆びても その名は錆びぬ 昔ながらの 落し差し 

 石は錆びても その名は錆びぬ 昔ながらの 泉岳寺

 鳶は錆びても その名は錆びぬ 昔忘れぬ 纏持ち

 笛は冴えても 心は冴えぬ 秋の嵯峨野に 露分けて

重ね扇は よい辻占よ 二人しっぽり 抱き柏 

 君が情けを 仮寝の床の 枕片敷く 夜もすがら

 伽羅の香りと この君様は 幾夜泊めても 泊め厭かぬ

獅子は喰わねど 宍喰越えて 雨や霰や 甲浦

五尺手拭 中染め抜いて 誰にやろよりゃ 様にやろ

 様の手拭ゃ 山形ヤの字 どこの紺屋で 染めたやら

伊豆の山には 名所がござる 籠で水汲む これ名所

 伊豆じゃ七島 四国じゃ八島 房州館山 鷹の島

奈良の大仏さんを やっこらやと抱いて お乳飲ませた 親見たや

野暮な屋敷の 大小捨てて 腰も身軽な 町住い

縁がないなら 茶山にござれ 茶山茶どころ 縁どころ

 茶山茶山と 楽しゅで来たら 上り下りの 坂名所

 茶摘み茶摘みと みな言うて来たが お茶の摘み道ゃ まだ知らぬ

 お茶の摘み道ゃ 知らんならおそゆ 古葉残して 新芽摘む

 茶山だんなんさんな ガラガラ柿よ 見かきゃよくても 渋うござる

 茶山だんなんさんと ねんごろすれば 決めた給金よりゃ 袖の下

 決めた給金よりゃ 袖の下よりも 私ゃごりょんさんの 眼がえずい

 こんなやわい茶は 五貫どま摘まにゃ 様のかんざしゃ 何で買う

 茶摘みゃしまえる じょうもんさんな帰る ここに残るは 渋茶園

 お茶は揉め揉め 揉みさよすれば どんな柴茶も 濃茶となる

 お茶は揉めたか 釜の上はまだか 早く揉まねば 遅くなる

 四月は茶山に 夏は筑前に 秋は豊前の 櫨に山

 お茶を揉んでくれと 足取り手取り 終ゆりゃご苦労じゃと 戸をつめる

 矢部がよいかな 星野がよいか 矢部で妻持ちゃ 矢部がよい

 今年ゃこれぎり また来年の 八十八夜の お茶で逢お

 様は今来て またいつ来やる 明けて四月の 茶摘み頃

 茶摘み頃かや わしゃ待ちきらぬ せめて菜の葉の 芽立つ頃

山陽鉄道 神戸がもとよ 九州鉄道 門司がもと

 それじゃ主さん 行こではないか ここで照る日は よそも照る

 ここも旅じゃが また行く先も 旅の先なら ここがよい

うちの親父にゃ 位がござる 何の位か 酒狂い

 かかの古べこ 質屋へ入れて 親父ゃ酒屋で 酒を飲む

ちょいと行ってくる 豊後の湯まで あとに花おく 枝折るな

 枝も折るまい 折らせもすまい 早くお帰れ しぼれます

堅いようでも 女はやわい やわいようでも 石ゃ堅い

 上り下りの 石の目も知らず 鉱夫さんとは 名がおかし

 朝も早うから カンテラさげて 坑内下がるも 親の罰

 トロッコ押しさんは トロッコの陰で 破れ襦袢の 虱とる

 発破かければ キリハが進む 進むキリハで カネが出る

 朝から晩まで 叩かにゃならぬ 叩かにゃ食えぬと かかが言うた

 坑夫々々と 見下げてくれな 家に帰れば 若旦那

 あなた鉱夫で わしゃ水引きで 同じ山にて 苦労する

 鉱夫女房にゃ なれなれ妹 米の飯食うて 楽をする

 妹なるなよ 坑夫さんのかかにゃ 妹だまして 姉がなる

 石刀はカネでも 棒は千草でも 叩かにゃ食われんと かかが言うた

 フイゴさすさす 居眠りなさる カネの流れる 夢を見た

 トコヤ上には 二股榎 榎の実ゃならいで カネがなる

 鳥が舞う舞う トコヤの上を 鳥じゃないぞえ カネの神

 新造フイゴに あら皮巻いて さぞやきつかろ 手子の衆は

唄の上手の お一人よりも 下手の連れ節ゃ おもしろい

 歌の段かよ 仕事の段か 様は病気で 寝てござる

 雨は降り出す 殿御は山に 蓑をやりたや 笠そえて

 馬が勇めば 手綱も勇む 手綱勇めば 鈴が鳴る

 いちで後家とて 駄賃取りゃするな いつも夜で出て 夜で帰る 

 馬方さんには どこ見て惚れた 手綱持つ手の しおらしさ

 馬方女房にゃ なるなよ妹 妹だまして 姉がなる

 駒よ勇めよ この坂越えりゃ 荷物下ろして はみをやる

 馬がよければ 馬方様の つけた葛籠の しなのよさ

 馬はやせ馬 男は小なり 長の道中で 苦労する

 駄賃取りちゃあ 聞く名も恋し いつも小銭の 絶えがない

 わしのスーちゃんの 引かしゃる駒は 紺の前だつ 白の駒

 白の駒引く あの馬子さんに 契こめたぞ 深々と

生まれ山国 育ちは中津 命捨て場は 博多町

 博多町をば 広いとおっしゃる 帯の幅ほど ない町を

 帯にゃ短し たすきにゃ長し お伊勢編み笠の 緒によかろ

 お伊勢編み笠を こき上げて被りゃ 少しお顔を 見てみたや

 見ても見厭かぬ 鏡と親は まして見たいのは 忍び妻

 忍び妻さん夜は 何時か 忍びゃ九つ 夜は七つ

 七つ八つから 櫓を押し習うて 様を抱く道ゃ まだ知らぬ

 様を抱くにも 抱きよがござる 左手枕 右で締め

 締めてよければ わしゅ締め殺せ 親に頓死と 言うておきゃれ

 親にゃ頓死と 言うてもおこうが 他人は頓死と 思やせぬ

 思うてみたとて 色には出すな お前若いから 色に出る

 色にゃ迷わぬ 姿にゃ惚れぬ わしはお前の 気に惚れた

 惚れたほの字が 真実ならば 消してたもれや わしが胸

 胸にゃ千把の 火を焚くけれど 煙あげねば 他人は知らぬ

 誰も知るまい 二人が仲は 硯かけごの 筆のみぞ

 筆と硯ほど 染んだる中も 人が水差しゃ 薄くなる

 薄くなっても また磨りゃ濁る そばに寝ていりゃ なお濁る

 そばに寝ていりゃ こっちを向けと 朝の別れを 何としょう

 何としたやら この四五日は 生木筏か 気が浮かぬ

 生木筏で 何の気が浮こうぞ 様が浮かせぬ 気じゃものを

 様は切る気じゃ わしゃ切れぬ気じゃ 割って見せたい 腹の中

 腹の立つときゃ この子を見やれ 仲のよいとき 出来た子よ

 仲がよいとて 人目にゃ立つな 人目多けりゃ 浮名立つ

 浮名立つなら 立たせておきゃれ 人の噂も 二三月

 三月四月は 袖でも隠す もはや七月 隠されぬ

様よ忘れた 豊前坊の原で 羅紗の羽織を 茣蓙とした

私ゃ英彦山 ざっつさんの娘 米のなる木を まだ知らぬ

 米のなる木を 知らんなら教ゆ すわる高木の 裏を見よ

草本金山 かねつく音は 聞こえますぞえ 守実に

 花の草本 まわりの山は ここもかしこも 金が出る

 唄じゃ小屋川 仕事じゃ吉野 花の草本 御所どころ

花の奥谷 流れちゃならぬ 植えた木もありゃ 花もある

豊前山国 その山奥で 一人米搗く 水車

上りゃ英彦山 下れば中津 ここが思案の 朝日橋

春の耶馬溪 谷間の桜 三日見ぬ間に 色がつく

 秋の耶馬溪 おしゃれなところ 山は紅葉で 化粧する

咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る

 花は散るとも 繋がにゃならぬ 中津お城の 殿の駒 

 中津中津と さしては行けど どこが中津の 城じゃやら

中津十万石 おどいもんなないが おどや垂水の えびが淵

中津小犬丸 米屋の奥へ 広津小川に 身をはむる

番所役人 親切物よ 腹の痛い時ゃ 万金丹

私ゃ小祝 浜辺の生まれ 色の黒いのは 御免なれ

安心院五千石 底霧分けて 様の姿は もう見えぬ

 安心院盆地に 底霧こめて 上に浮かんだ 豊後富士

安心院盆地の 不思議な話 語り伝えて 七不思議

 水沼お水は 濁らず涸れず いざり大蔵の 脚も立つ

 忠義一途の 二階堂様の 五輪汚すな 腹がせく 

 騒ぎ過ぎると お叱り受けて 泣かぬ蛙の 最明寺 

 乳を貰いに 五十里百里 岩に刻んだ 生不動 

 七つ星さま 六つこそござる 一つ深見の 剣星寺

 奇岩屹立 麓は桜 床し宇佐耶馬 仙ノ岩

 佐田の京石 昔の名残 都偲んだ 祭り跡

宇佐の三瀑 西国一よ 古く賑わう 滝参り

 裏に回って 眺める滝は 日光裏見と 竜泉寺 

 さすが雄滝 西椎屋凄や しぶき巻き上げ 鳴りたぎる 

 東椎屋は 九州華厳 絵でも見るよな 艶姿

バスは二色 湯の香を乗せて 安心院安心院と 一筋に 

桜名所は 香下神社 山も社も 花霞 

走る早瀬の 三つ又川を 蹴りて行き交う 鮎の群れ 

春は岳切 布目の流れ 岸の石楠花 しだれ咲き

昔栄えた 仏法の形見 国の宝の 竜岩寺 

親が大工すりゃ 子までも大工 宇佐の呉橋ゃ 子が建てた 

 宇佐の百段 百とは言えど 百はござらぬ 九十九段

 宇佐に参るよりゃ お関に参れ お関ゃ作神 作がよい

 宇佐に参るよりゃ 御許に参れ 御許元宮 元社

 宇佐にゃ参らず 宇佐餅ゃ搗かず 何を力に 髪梳こか

 見ても見事な お宇佐の榎木 榎の実ゃならいで 葉が繁る

豊前長洲の エビ打つ音が 聞こえますぞえ 向うが島

臼野港に 二瀬がござる 思い切る瀬と 切らぬ瀬と

見目の長崎 香々地の尾崎 仲を取り持つ みやの山

 うちのお殿さん 長崎鼻で 波に揺られて 鯛を釣る 

 鯛は周防灘 港は香々地 海も情けも 深いとこ

 深い情けに 命をかけて しけりゃ漕ぎ出す 助け船

 助け上げられ 抱き締められて 寝たがその子の 名は知らぬ

香々地ゃよいとこ 海山近い 娘器量良し 仕事好き

 浜の娘は 藻に咲く花よ 波の間に間に 夫婦岩

盆の踊り子が 塩浜越えて 黒い帯して 菅笠で

来浦浜を 鳴いて通る鴉 金も持たずに 買う買うと

 来浦で名所は 金毘羅様よ 島が見えます ほのぼのと

 三十五馬力の 発動機船で 行くは漁が島 下関

富来よいとこ 一度はおいで 日本三つの 文殊ある

守江灯台 霞がかかる 私ゃあなたに 気がかかる

 わしの思いは 神場の浜じゃ 他に木はない 松ばかり 

私ゃ湯の町 別府の生まれ 胸に情の 灯がとぼる 

来ませ見せましょ 鶴崎踊り いずれ劣らぬ 花ばかり 

 花が見たくば 鶴崎踊り 肥後の殿さえ 船で来る 

 清き流れの 大野の川の 月に浮かべた 屋形船

 夏は遊船 川風夜風 眺め見あかぬ 大野川 

 下る白滝 情けの金谷 末は鶴崎 抱き寝島

 月は九六位 大野の川に 映えて鶴崎 盆踊り

 昔ゃ肥後領 百千の船が 上り下りに 寄る港

 百合か牡丹か 鶴崎小町 踊り千両の 晴れ姿

 豊後名物 その名も高い 踊る乙女の しなのよさ

 私ゃ踊りの 鶴崎育ち しなのよいのは 親ゆずり

逢えば新川 磯馴の松の 誘う風ありゃ 片靡き

 潮干狩りなら 青崎浜よ 路は並木の 土手続き 

 細はよいとこ 磯崎海で 波に揺られて 鯛を釣る

嫁を取るなら 判田の米良へ 見どりよりどり 器量よし

 わしの思いは 本宮の山よ ほかに木はない 松ばかり

 本宮清水を 堤で温め 秋は黄金の 米良の原

嫁に行くなら 湯平がよかろ 夏は涼しゅて お湯が湧く 

わしが思いは 由の岳山の 朝の霧よりゃ なお深い 

わしが在所は 猪の瀬戸越えて 米の花咲く お湯どころ

星か蛍か ぴかぴか光る 照らし輝く イロハ川

 軒端伝うて 来る蛍さえ 月の隠れた 隙に来る

 心やさしの 蛍の虫は 忍ぶ畷に 灯をともす

 人の手を刺す あざみでさえも 蛍に一夜の 宿を貸す

 憎や尺八 我たき落とし ひとよぎりとは 恨めしや

行こか神崎 戻ろか大平 ここは思案の 中ノ原

関の権現様 お水が上がる 諸国諸人の 目の薬

関の一本釣りゃ 高島の沖で 波にゆられて 鯛を釣る

日照り続きの 雨乞まつり 九六位お山の 水もらい

志生木小志生木の ベラとるよりも 瓦切っても 細がよい

高い山では 白山お山 臼杵五万石 目の下に

 臼杵五万石 大豆にゃ切れた 狭い佐伯に 豆詮議

 臼杵五万石 縦縞ならぬ 碁盤格子の アラレ織り

 臼杵五万石 広いようで狭い わしに似合いの 妻がない

 臼杵五万石 かけこそ名所 出船入船 なお名所

 さても見事な 臼杵様の城は 地から生えたな 浮き城な

広い日本の どこより先に 南蛮船の 来たところ

 春の丹生島 浮城跡は 今じゃ桜の 花どころ

 昔なつかし 本丸跡の おぼろ夜桜 縁となる

 花の宴に 一差し舞えば 差す手引く手に 花が散る

下ノ江港にゃ 碇はいらぬ 三味や太鼓で 船繋ぐ

 下ノ江女郎衆は 碇か綱か 今朝も出船を 二度とめた

 下ノ江可愛や 金比羅山の 松が見えます ほのぼのと

 月が出ました 下ノ江沖に 波に揺られて 濡れながら

 下ノ江港にゃ 浅瀬が二つ 思い切る瀬と 切らぬ瀬と

 船は出て行く 心は残る 残る心が 三ツ子島

 ナカギ・セイダロ コジロが浜で 泣いて別れた 節もある 

尾崎ヤブの内 小迫は都 間の花崎ゃ 松のかげ

 仲間谷底 日陰の屋敷 浜は高尾で 色内名

保戸の高子は さいの波絶えぬ わしが胸には 苦が絶えぬ

 押せよ押させよ 船頭さんもかかも 押さにゃ上がらぬ この瀬戸は

佐伯内町 米屋のおよし 目許ばかりが 天女かな

 堅田行くなら お亀にゃよろしゅ 行けば右脇 高屋敷

灘と女島は 棹差しゃ届く なぜに思いは 届かぬか

 ここと島江は 棹差しゃ届く なぜに届かぬ わが想い

羽出よいとこ 朝日を受けて 住める人たちゃ 和やかで

色利ゃ日が照る 宮野浦曇る 中の関網 雨が降る

 小野市ゃ照る照る 釘戸は曇る 並ぶ楢ノ木ゃ 槍が降る

 坂は照る照る 鈴鹿は曇る 間の土山 雨が降る

わしは小浦の 粟島様に 燈明明かして 願ほどく

うちのお父さん シマンダ沖で 波に揺られて 鯛を釣る

 うちのお父さん 鯛釣り上手 他人が千釣りゃ 二千釣る

山が高うして 丹賀が見えぬ 丹賀かわいや 山憎や

 わしが思いは あの山のけて 様の暮らしが 眺めたい

 様の暮らしは いつ来てみても たすき前かけ シュスの帯

ここと中越に かねの橋かけて 中のくぼるほど 通いたい

私ゃ佐伯の 灘村生まれ 朝も疾うから 上荷取り

 沖の暗いのに 白帆が見ゆる あれは佐伯の 宝重丸

 船が一杯来りゃ お客さんか思うて 宿のおげんさんが 出て走る

 石間おげんさんの 鉄漿壺は 鉄漿を入れんでも 浮いてくる

わしの思いと 長瀬の原は ほかに木はない 松ばかり

西野長池にゃ 蛇が住むそうな 怖い池じゃげな 嘘じゃげな

黒沢来さんは 菜種の花じゃ 舞い来る島田が 皆とまる

わしの思いは 戸穴の役場 レンガ造りの ガラス窓

嫁にやるなら 田原にゃやるな 田原田どころ 畑どころ

 親がやるとも 山田内にゃ行くな 寒の師走も 水の中

 畑木極楽 山田内地獄 間のいぜ屋が 御所どころ

なんぼ広島産の 掛刃でも 佐伯二条刃にゃ かなやせん

竹田中川侯は 情ある殿よ 年に一度は 駕籠で来る

錫は出る出る 大平坑に 今日もカネ吹き フイゴ差し

 錫で名所の 木浦の山は 日向豊後の 国境

 豊後木浦は カネ吹き名所 竹田中川侯の お抱え鉱

 木浦銀山 カネ吹く庭に 夏の夜でさせ 霜が降る

緒方名所は 原尻巡り 滝のしぶきが 客招く 

豊後緒方は 踊りの町よ 川の水さえ 踊ります  

三重の内山 紙漉き所 紙を漉く娘の 器量よし

様よ出て見よ 奥嶽山に みかん売り子が 灯を灯す

 みかん売り子じゃ わしゃないけれど 道が難所で 灯を灯す 

 道は難所じゃ イヤなけれども 家が難渋で 灯を灯す

西が暗いが 雨ではないな 雨じゃござらぬ よな曇り

 雨の降り出しゃ 一度はやむが わしの思いは いつやむな

西は久住山 南は祖母よ 中を取り持つ 大野川

岩戸川より 沈堕の瀬より 浅い野尻が 気にかかる

駒の腹巻 主の名を入れて 臼杵と竹田に 名を残す

一棹二棹 緒方のミサオ ミサオなけらにゃ 通やせぬ

竹田々々と 名は高けれど 城がなけらにゃ 山いなか

月は照る照る 九重の峰に 河鹿鳴く鳴く 夜は更ける 

飯田高原 広漠千里 山は紫 水清し 

田野じゃ北方 湯坪じゃ挟間 夏の涼しさ 地蔵原

さても見事な 上野のつつじ 枝の豆田に 葉は隈に  

隈じゃ太政官 豆田じゃお鶴 塾じゃ中六 とどめさす

千丈小橋で 出逢うた言うたが どこが千丈の 小橋やら

茶山茶山と みな言うて登る 津江は茶どころ 縁どころ

鯛生通いは もうやめなされ 鉄のわらじも たまりゃせぬ

佐伯なば山 鶴崎ゃ木挽き 日田の下駄ひき 軒の下 

色は竹田で 情けは杵築 情けないのが 日出・府内

豊後湯の岳 豊前じゃ屋山 御国境の 英彦の山