父母報恩口説

さても地上に二十と四徳 浜の真砂の数にも勝る 数多衆生のあるその中に
父とかしずき母よと呼ぶは 三千年にただ一度咲く 優曇華よりも尊き縁
されば人の子いさまず立ちて 浮世の風にと叩かれ揉まれ 余命少なき二親様の
溺れる心を慰めまつれ さりとも見えない父母なれど 寄る年波のいとしさあわれ
夜半の寝顔を静かに見れば 見まごう程に衰えやつれ 輝く昔の面影いずこ
樹静まらんと慾すといえど 風の止まぬをいかにとやせん 子養わんと願うといえど
親在りませぬぞ哀れや淋し 父よ父よと叫べど呼べど 答えませぬぞ松吹く風も
哀れ母人わが子を置きて 御霊いずこと幻追いて 胸かきむしりて嘆いてみても
声も届かず姿も見えず 帰りませぬぞただ一度も 父の今際のその枕辺で
泣いて念ずる一声あらば 生きておいでの朝に夕に 言葉やさしく微笑みかけよ
母の今際に取りすがりつつ 泣いておろがむその手を持って

肩を揉みませ常日ごろから げにや古くてまた新しき 道は報恩の大道なるぞ

孝は百行の大本にして 成功出世の正門奥儀 さればどなたも今日この日より

父母の報恩を心に刻み 人に親切家業にはげみ 親の名までも高めよ上げよ

親の安心喜び願い 努力する人末代までも 神の護りはそそがれまする
御詠歌「世をすくう 三世の仏の心にも 似たるは親の恵みなりけり」