親鸞聖人御難儀苦行口説
浄土真宗の寺社の盆踊りで口説かれたと思われる。
親鸞聖人御難儀苦行
さても都にその名も高き 藤原氏なる御子にあれど 元が阿弥陀の御化身なれば
乳母とお遊びなされし時に 土を寄せては仏を造り 西に向って南無阿弥陀仏
ついに九歳のその春なるが 緑の黒髪剃り落とされて 滋鎮和尚の御弟子となりて
比叡の山にて御修行ありて 慈悲の心を起こさせ給い 自力かなわぬ凡夫のために
数多お弟子の目を忍ばれて 六角堂なる観音様へ 衆生済度の近道あらば
教え給えと百夜の間 三里余りのきららの坂を 雪の降るのもお厭いなくて
徒や素足でお通いなさる それを妬んで数多のお弟子 滋鎮和尚に悪口告げる
そこで法然御招きあれば はいと答えてその場へ出でて そばを一膳お上がりなさる
ある夜観音御告げによりて 黒谷お寺の法然様の 弟子となられて御法を聞いて
信と行とを二つに分けて 他力不思議の御化導あれば そこで天子の后様の
松虫鈴虫二人のお方 一座の教化に基きなされ 無理にお弟子にお願いなさる
尼になされて其の罪科しめで 女人安楽死罪になされ 土佐の国へは法然様を
我祖聖人越後の国へ 流罪なりとも御勅故に 蒲の脛巾に草鞋を履いて
お弟子二人を召連れられる 菅のお笠で立退きあれば 別れ悲しむ時雨の桜
鬼の出でたる越後の国の 小谷明神国分寺にて 逗留なされて御化導のうちに
流罪御免の勅使の役に 岡崎中納言お下りあれど 数多凡夫が不憫さ故に
馴れし都へお帰りなくて 衆生済度にお廻りなさる 富屋の村にて御化導あれば
我も我もと懺悔を致す 弥陀の誓願他力の御法 教え聞かせて末世に残し
数珠掛け桜も如来の不思議 田上村にはつなぎの茅よ 安田村には三度の栗よ
山田村には焼き鮒残し 頃は五月の半ばであるが 雨は五月雨しきりに降りて
日暮れなる宵柿崎村で 一夜宿をばお願いあれば 慳貪邪見の扇谷宵に
泊めるどころか追い出だされる 門の軒下褥と致し 石を枕に御難儀なさる
神の知らせで向いに出でる 他力不思議に発起を致す 六字の名号父親にくれて
其の夜立ち退き御急ぎなれば 後を追いかけ扇谷女房 河を隔ててお願い申す
六字の名号戴きまする 御念御化導の御難儀ありて 越後立ち退き関東登り
下野下総常陸に到り 稲田村にて草庵建てて 衆生済度にお歩きなさる
ある日俄かに吹雪になりて わずか三里の半場であれど 行きも帰りも出来ないゆえに
一夜の宿をば御願いあれど 邪見盛りの日野左衛門は 怒り叫んで追い出だされて
これが浄土の正客となり 見捨てられぬと御門の外で 雪の降るのもお厭いなくて
石を枕にお休みあれば 六字の御利益現れまして 夫婦驚き御迎え申す
一座御教化戴くよりも 髪を落として御弟子となりて ご案じついと御供を致す
又もお弟子を召し連れられて 衆生済度に板敷山を 南無阿弥陀仏で行き来をなさる
諸寺や諸山の自力の人が 他力不思議に繁昌するを 妬み嫉んで悪心起こし
吾郎庵にて手向いすれど 祖師の御徳に驚きまして 貝も錫杖も打ち捨てられる
数多山伏お弟子となりて 墨の衣で御供を致す 長の御苦労御難儀ゆえに
ついに報われ御勅の我等 妻子あしらい畳の上で 頼むばかりで助かる法は
弥陀の願力不思議であると 寝ても起きても念仏申し 祖師の御恩を忘れぬように
上の掟をよく守られて この世目出度し未来は浄土 唱えまいかや南無阿弥陀仏