えびや口説
商人「えびや」の道中記で、各地の名所等が羅列されたもの。 最後が尻切れになっているが、本来はもっと長い口説だったのだろう。杵築市周辺に伝承されていたようだ。
えびや
ありゃ長崎えびやの口説 親の代から小間物売りよ いつか小間物商売やめて
今は大阪糸物立てよ 帆布七反ふたので進上 荷物整え今日吉日に
船頭頼んで舟こしらえて とんと長崎後にと眺め 周防灘をばあなぜて走る
備前岡山早や後に見て ここは播州の宝津の沖よ 沖に見ゆるは唐見の島よ
岡に見ゆるは明神様よ 下に見ゆるはお女郎の町よ お女郎町には尾の無い狐
わしも二三度騙されました 少し東を市の裏というて 沖じゃ網引く 地じゃ三味を弾く
又も東を片浦というて 岩が一つの名所でござる 少し東が黒崎沖よ
前は舟越篠井の森よ 又も東は刈屋の沖で 沖にゃ投石 地にゃ仏石
少し走れば浜だの港 庭で米搗く奥の間で座禅 少し東にゃ揖保川流れ
日日毎日高瀬が下る 高瀬ばかりか筏も下る 川の東はオキ浜村よ
オキの浜には陣屋がござる これは讃岐の京極様よ 村の続きが余子浜村よ
村は縦村名は余子浜で 宮は古うても若宮様よ 少し東が大江の村よ
大江千里が住んだる所 少し東が吉見の村で ぐるり小松で中塩浜よ
少し走れば飾磨の沖よ 飾磨沖から姫路を見れば 見ても見あかぬ姫路のお城
ぐるり白壁桐戸の御紋 天守九つ櫓は七つ 播磨大工の手柄でござる
建てた大工の手柄と共に 金子でしあげた大名の手柄 姫路城より北の方を見れば
二十六番札所がござる えんの扉が笙・篳篥よ 少し東が鹿松原よ
八家地蔵も早や後に見て 播磨名所を回りて見れば 鐘は暁 尾上の松よ
石の宝殿あの曽根の松 別府名高い手枕松よ 少し走れば明石の瀬戸よ
明石沖にて汐時待ちて 沖を眺むりゃ淡路の島よ 岡に見ゆるは明石の城よ
城の東は人丸神社 汐も直るし追風も来たで 碇引き上げ帆を張り上げて
明石瀬戸をば首尾よく渡る 向こうに見ゆるは舞子の浜よ 須磨の景色を眺むる中に
ここは一の谷敦盛様の お墓所かヤレ痛ましや 兵庫神戸も地に見て走る
ここは西の浜 恵比寿様沖よ 甚句恋風吹きまくりつつ 行けば程なく大阪港
さっさ押せ押せ安治川堀よ 碇下ろして艫綱とりて 柱倒して苫ふきそろえ
岡で甚句は天まで上がれ 岡へ上りて呉服屋の店を 店にゃ何々金襴緞子
綾や縮緬錦もござる 当世流行のビロードの脚絆