炭焼き小五郎口説

「真名野長者伝説」の口説。真名野長者伝説は大分県を舞台にした壮大な物語で、今なお語り継がれており、本にもなっている。この口説の内容は、真名野長者伝説の冒頭部分にすぎない。おそらくこれ以降の場面も盆口説になっていると思うので、資料等見つかり次第全文を紹介したい。なお、この口説は、大野地方や南海部地方で特に親しまれているようだが、国東方面でも時折口説かれることがある。

 

 

炭焼き小五郎

 

扇めでたや末広がりて 鶴は千年 亀万年と 祝い込んだる炭窯の中

真名野長者の由来を聞けば 夏は帷子 冬着る布子 一重二重の三重内山で

藁で髪結うた炭焼き小五郎 自体小五郎は拾い子なれば どこの者やら氏筋ゃ知れぬ

氏が知れなきゃ奥山住まい もとの氏すを調べてみれば 父は又五郎 玉田の育ち

姫の氏すを尋ねて聞けば 氏も系統も歴々知れた 都大内久我大納言

大納言とも呼ばれし人の 一人娘の玉津姫よ 何の因果か悪性な生まれ

広い都に添う夫がない 夫がなければ三輪明神に 七日七夜の断食籠り

六日籠りてその次の晩 夜の九つ夜中の頃に 六十余りの老人様が

姫よ姫よと二声三声 姫は驚き夢をば覚ます 姫よよう聞け大事なことよ

そなた一代連れ添う夫は ここにゃないない都にもない 下に下りて九州や豊後

九州豊後や臼杵の奥で 夏は帷子冬着る布子 一重二重の三重内山で

藁で髪結うた炭焼き小五郎 これがそなたの連れ添う夫よ 云えば姫君打ち喜んで

神の御殿を急いで下る 急ぎゃ程なく我が家へ帰り 急ぎ急いで旅装束よ

手ぬき手ぬぐい水掛脚絆 足に草鞋で背には油単 小判四十両肌にぞ付けて

笠にゃ同行二人と書いて 三節込めたる寒竹の杖 急ぎ急いで旅路にのぼる

人に恥ずかし我が身に嬉し 嬉し恥ずかし尋ねて下る さして行く手は九州豊後

伏見街道は夜の間に下り 出でて来たのが大阪城下 大阪川口便舟探し

九州下りの便舟に乗り 舟を出したが日の出の頃よ 舟は新造で帆は六反で

船頭一人で水夫三人よ 潮は連れ潮 風ゃまとも風 追い風よければ帆を巻き上げりゃ

男波女波が船べり叩く ここはどこよと舟子に問えば ここは一ノ谷敦盛様の

御墓所があな愛おしや またも急いで明石に下る ここはどこよと舟子に問えば

ここは明石の舞子が浜よ あれに見ゆるが淡路の島よ 播磨灘さよ波穏やかで

心のどかな舟路の旅よ あれに見ゆるが小豆が島で 急ぎゃ程なく水島灘よ

阿伏免観音拝みを上げて 旅の安全御加護を祈り 瀬戸の島々左右に眺め

舟は急いで川尻過ぎりゃ 音に聞こえし音戸の瀬戸よ 瀬戸の連れ汐まともに受けて

着いた所がここ上関 上関にて汐がかりする 汐の淀みに碇を巻いて

舟は急いで姫島に着く 沖は荒波風待ちなさる そこで姫君陸には上がる

姫ヶ島にて紅カネ着けりゃ 花も恥らう美人に変わる 鏡代わりに覗いた井戸が

今の世までも姫島村に 七つ不思議の一つで残る 風もおさまり舟出をなさる

着いた所は府内の城下 またも急いで臼杵に下り 城下外れの宿屋に泊まる

そこで姫君四五日逗留 宿の亭主や近所の人に 道の様子を細かに訊いて

今日は日が善い御山に登る 山の峰々また谷々を 都育ちの慣れない足に

杖を頼りにようやく越える 山の麓で草刈る子供 そこで姫君物問いなさる

もうしこれいな子供衆さんよ 一重二重の三重内山で 藁で髪結うた炭焼き小五郎

どこが住いか教えてたもれ 云えば子供の申せしことに よそのおばさんあれ見やしゃんせ

はるか彼方が三重内山よ 雲にたなびき煙が見える あえが炭焼き小五郎の住い

云えば姫君打ち喜んで 杖を頼りに煙が見ゆる 急ぎ急いで御山に登り

山の峠で山師に出会う そこで姫君物問いなさる もうしこれいな山人さんよ

これなお山で炭焼く小五郎 どこの住いか教えてたもれ 云えば山人申せしことに

これなお山で炭焼く人は 他にゃないない私が一人 小五郎さんとは私がことよ

云えば姫君打ち喜んで さても嬉しや妻御が知れた 小五郎さんなら私の夫よ

そこで小五郎が申せしことにゃ 一人すぎさえ出来ないものを 二人すぎとは思いもよらぬ

御免なされと袖振り放す 姫は泣く泣く小褄にすがり あなた嫌でも出雲の神が

結び合わせたご縁でござる どうか子細を聞かれて給え 云えば小五郎が不憫に思い

何はともあれ夕暮れ時に 外に人家もない山里で 心細かろ難儀であろう

今宵一夜の宿貸しましょと 姫を連れ立ち住いへ帰る 萱の庵の柴戸を上げて

さあさお入り都の姫よ 粥を煮立てて夕餉をすませ 炉端挟んで四方山話

そこで姫君物やわらかに 神のお告げや身の上話 一部始終を細かに語る

縁は異なもの一夜の宿が 二世を誓うて夫婦の契り 一夜明ければ夫と呼ばれ

妻と呼ばれてうら恥ずかしや そこで姫君申せしことにゃ もうしこれいな小五郎さんよ

二人すぎでは立たぬと言うたが 二人すぎする用意もござる 肌に付けたる小判を出して

城下下りて米買うてござれ 米がわからにゃ麦買うてござれ 麦がわからにゃ粟買うてござれ

それを知らねば手代に任せ 一分小判を肌には付けて とんで行く行く野山の道で

左小脇に小池がござる 小池中にはおし鴨番 そこで小五郎が思いしことにゃ

あれを打ち取り都の姫に 今宵夕餉の土産にせんと あたり近所を見回すけれど

取りて投げそな小石もないよ 肌に付けたる小判を出して とんとすとんと投げたる途端

鴨は舞い立つ小判は沈む 行くに行かれず我が家へ帰り 我が家帰りて都の姫に

右の子細を細かに語る 云えば姫君打ち驚きて さても愚鈍な我が妻様よ

あれはこの世の世渡る宝 あれが無くてはこの世が立たぬ 云えば小五郎がにっこと笑い

わしが炭焼くあの谷々にゃ 山の山ほどござんすしゃんす 聞いた姫君打ち喜んで

明日は日が善い金見物よ 銚子盃袂に入れて 急ぎゃ程なく新黒谷よ

ここが良かろと茣蓙打ち広げ お酒飲む飲む金見物よ あれに見ゆるが大判小判

これに見ゆるは一分や一朱 聞いて小五郎は打ち喜んで 二人連れ立ち我が家に帰る

千駄万駄の駄賃を雇い 拾い寄せたるその金銀を 朝日輝く夕日の下に

鶴は千年亀万年と 祝い納めて長者の門出 その日暮らしの小五郎さんが

屋敷求めて家倉建てる 四方白壁八つ棟造り 庭に泉水築山造り

朝日さすさすヤレ朝日さす 黄金千倍また二千倍 七つ並べがまた七並べ

お前百までわしゃ九十九まで 共に白髪の生えるまで 真名野長者と世に仰がれて

語り伝わる今の世までも